佐藤優を斬る──なぜ佐藤優はデタラメな議論をしているのに評価が高いのか

良い記事です

語り部のほとりで

皆様は佐藤優という人物をご存じでしょうか。

読書家の方、北方領土問題や日露外交に関心のある方、鈴木宗男事件を覚えておられる方はご存じかもしれませんね。以前は外交官として、現在は著述家として活動している人物です。この記事は、そんな佐藤優の議論に潜む思考法と知識のデタラメさを批判しようというものです。

佐藤優は、大学卒業後に外務省に入って対ロシア(当時ソ連)外交官となりました。一時期は政治家の鈴木宗男と連携して北方領土問題に取りくんでいましたが、鈴木宗男事件に伴って背任容疑で逮捕されました。

その後、自身の半生や事件・逮捕後の様子を『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』という本に書き、ベストセラー作家としてデビューします。『自壊する帝国』『獄中記』『はじめての宗教論』『私のマルクス』などの多彩な著述活動を展開しています。

私は『国家の罠』から読み始めて佐藤のファンになり、一時は彼の著作を熱心に買い漁っていたものですが、あるとき彼の思考法や著述内容のデタラメに気がつき、読むのをやめました。今ではそれでよかったと思います。

ところが、論壇やインターネットを見渡しても、佐藤優を批判する記事はほとんど見当たらない。いや、皆無ではないのですが、極めて少ないのです。

ぐらいでしょうか(佐藤優と「偏微分(笑)」・ネタふり編などの記事を書かれていたliber studiorumというブログがありましたが、現在削除されて閲覧できません)。他にもあるかもしれませんが、問題の多いことを書いている人物なのに批判の数が少ないなあと常々思っていました。

そこで今回、かつての佐藤優ファンとして、佐藤優がどういう著述家なのか、どこに問題点があるのかを説明したいと思います。

〔追記〕当記事ははてなブックマークやTwitterを通じて多くの方に読んでいただきました。その際に寄せられた反響や批判については、「佐藤優を斬る」への反響とコメントについてで述べています。

この記事の要旨

  • 佐藤優の議論のほとんどは、持ち前の知識や教養を、何の関係もない社会現象や事件と無媒介に結びつけて論じただけのデタラメである。
  • 佐藤優は議論だけではなく、その知識や教養もデタラメである。きちんと本を読んでいれば絶対にしない誤解や誤りを書いているからである。
  • 「知識の誤りは誰にでもある」「些細な誤りにすぎない」と佐藤を擁護する人が多いが、的外れな擁護である。佐藤の議論の誤りは知識ではなく思考法にあるからであり、看過できない本質的な誤りだからである。

目次

佐藤優の特徴

まず、佐藤優とはどういう人物なのでしょうか。その説明をしましょう(既に佐藤優のことをよくご存じの方は、問題点まで読み飛ばしていただいても構いません)。

佐藤優という人物は、

  1. かつて対ロシア外交官であったこと
  2. 当代屈指の知識人とみなされていること
  3. クリスチャンであること

この三つの要素から成り立っています。この三つが上手くあわさって、佐藤優という著述家の人気を支えています。

1. 佐藤優はかつて対ロシア外交官であった

佐藤優の人気の要因の一つに、かつて対ロシア外交官であったということがあります。いいかえれば、諜報(インテリジェンス)の専門家であったということです。

佐藤は既に外交官を辞めているのですが、インテリジェンス関連の著作をたくさん書いています。『インテリジェンス人間論』『インテリジェンス 武器なき戦争』は書名からしてインテリジェンスの本ですし、『インテリジェンスの極意! 』という本にも一文を寄せています。ウォルフガング・ロッツの『スパイのためのハンドブック』『シャンペン・スパイ』に推薦文まで書いています。彼が旧来日本に少なかった(?)インテリジェンスの専門家として注目を集めていることは間違いありません。

ただ、インテリジェンスの専門家であれば、佐藤以外にもいらっしゃいます。佐藤優が人気を集めるのは、別の要因があるからです。

2. 佐藤優は当代屈指の知識人とみなされている

佐藤優人気の要因は、彼がずば抜けた知識人(インテリ)である(少なくともそう見える)ことにあります。

彼は立花隆との対談を本にまとめているのですが(『ぼくらの頭脳の鍛え方』)、冒頭で蔵書は「一万五千冊」、ひと月の書籍代は「約二十万円」と凄まじいことを書いています。立花の「七、八万冊」には及びませんが、佐藤も相当な蔵書家です。

これが本当かどうかは分かりませんが、佐藤の本を読むと、確かに色々な本や人物の名前が出てくる。『獄中記』は、彼が逮捕されて512日間勾留されていたときのノートなのですが、これにはヘーゲルだのハーバーマスだのドストエフスキーだのイスラームだの『新訳聖書』だの『太平記』だのカントだのレーニンだの廣松渉だのetc.と、大量の人名・著作名が出てくる。もしこのすべてを獄中で読んでいたとすれば、確かに恐るべき知識の幅広さ、量です。

彼が評価される理由は、この読書が単なる知識ではなく、外交という実戦の場で活かされていた(らしい)ことにあるのですが、これは次で説明します。

3. 佐藤優はクリスチャンである

佐藤優は同志社大学を卒業しているのですが、学部は何と神学部なのです。同支社はクリスチャンでなくても入れるそうですが、彼は入学後にプロテスタントの洗礼を受けたらしいので、正真正銘のクリスチャンです。

法学部や経済学部ならともかく、神学部を出た人(しかもキリスト教徒)が国家公務員になるのは珍しいでしょう。ご本人も、本来外交官になるつもりなどなかったと述懐しています(『国家の罠』)。

おもしろいのは、彼が外交官になってからは神学をさっぱり忘れたわけではなく、神学を活かして外交の世界で活躍してゆく点です。『自壊する帝国』にその様子が説明されています。

佐藤はロシア(当時ソ連)の外交官になってロシアに駐在していた頃、モスクワ大学の哲学部科学的無神論学科というところに出入りしていました。この学部はソ連では大変権威のあった学部で、卒業生のほとんどがソ連共産党のイデオロギー要因や大学教員になったそうです。

彼は、学生時代にキリスト教神学をまなんだ縁で学部への出入りを許され、そこで哲学部専任講師のアレクサンドル・ポポフや哲学部の秀才サーシャ・カザコフと出会い、ソ連政界との人脈を広げたり情報を獲得してゆきます。

『自壊する帝国』の解説で、恩田陸はこのように書いています。

私が初めて佐藤氏の著作に接した『自壊する帝国』のなかで、自分の学んだ神学を基準として、ソビエトやその周辺諸国で知識人に人脈を広げていくところは痛快であった。若い時に思考の訓練をし、自分の判断基準を持っている人がいかに社会に出てからも強いかということを、私は社会人二十年目にして、改めて佐藤氏の著作から教わったのだった。

恩田のいう通り、佐藤の魅力とは、外交という政治の場において(金や権力ではなく)知識や教養を駆使して戦ってきたことにあるのです。

外交に強い政治家や教養のある知識人であれば、佐藤以外にもいらっしゃるでしょう。しかし、彼らは「日本の政治家は教養がない」だの「日本の大学教授は知識はあっても社会で役に立たない」だのいわれがちです。

ところが、佐藤は獲得した知識や教養を駆使しながら、ロシア外交という修羅場をくぐり抜けてきた。「知識・教養」に「実践的な力」の二つが揃って活躍しているわけですから、佐藤が喝采を浴びるのも当然の話です。

ちなみに、かつて「知の巨人」として君臨した(今はそうでもない)立花隆も、膨大な知識・教養を駆使して、田中角栄金脈問題やロッキード裁判・日本共産党批判といった政治の世界で活躍した人物でしたね。

邪推を覚悟でいうと、佐藤の外交話が本当かどうかは分かりません。客観的なソースが全くありませんから、全部佐藤の創作の可能性もある。ただ、私はロシア時代の外交経験だけは本当なのではないかと思っています(逆に、読書話はほとんどが嘘だと思います)。

佐藤優の問題点

知識や教養もあり、外交という現場で戦ってきた経験もある佐藤の一体何が問題だというのか? 簡単にいえば、以下の2つです。

  1. 「知識や教養」と「社会」を無媒介に接合して説明してしまうこと
  2. 思考の土台である「知識や教養」が誤解や誤りに満ちていること

1. 「知識や教養」と「社会」を無媒介に接合して説明してしまうこと

まず1番から説明しましょう。

例1: オペレーションズ・リサーチの研究者だから鳩山由紀夫は決断力がある?

以下の動画は、佐藤が講演会で鳩山由紀夫とその息子について話していたときのものです。

冒頭で、彼はこんなことをいっています。

  1. 鳩山由紀夫の息子は交通渋滞解消の問題を研究している
  2. 交通渋滞解消の研究はマルコフ連鎖(オペレーションズ・リサーチの一つ)を用いる
  3. 鳩山由紀夫自身もオペレーションズ・リサーチを研究している
  4. オペレーションズ・リサーチは意思決定において重要である
  5. よって、鳩山親子は決断力がある

私はマルコフ連鎖に詳しくありませんが、4番までは仮に認めるとしても、5番の結論が明らかにおかしいことは分かる。オペレーションズ・リサーチはあくまで意思決定のための研究であって、その研究に通じていることと、本人が意思決定が得意であることは無関係だからです(佐藤のマルコフ連鎖理解が誤りであることは、Sokalian氏の佐藤優氏の「知の欺瞞」

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